Power10 プロセッサー搭載サーバーが拓く新たな視点

Takumi Kurosawa
9 min readSep 8, 2021

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*本記事は、IBM Systems Japan Blog『Power10プロセッサー搭載サーバー発表に向けて』の各記事の内容と、筆者が確認できた発表関連情報に基づいて、あくまで「個人」として執筆しております。よって、日本IBMからの発表と異なる表現や用語が書かれている可能性があります。あらかじめ、お含みおきください。

米国時間の9月8日。RISCプロセッサーに分類されるIBM Power10 プロセッサーを搭載するサーバーIBM Power E1080が発表されました。

米国IBMのニュースリリース「IBM unveils new generation of IBM Power servers for frictionless, scalable hybrid cloud

「クラウドファースト」という言葉が代表するクラウドの時代において、「ハイブリッドクラウド」がIBMのクラウド戦略の基本となります。パブリッククラウドを活用するとともに、重要なデータを扱う基幹業務をオンプレミスに導入しているサーバーで稼働させるお客様のために、どのようなハードウェアをご提供するべきなのか。その問いに対してIBMが提示した回答が、IBM Power10 プロセッサーを搭載するIBM Power E1080なのです。

新製品なので製品の特長から紹介を始めるのが本来ではありますが、まずは、なぜ、IBM Power E1080がハイブリッドクラウドを活用されるお客様にとっての回答なのか、について考察してみたいと思います。

ここでは、IBM PowerのLPAR(論理区画)をIBM Cloud経由で従量課金で利用できるIBM Power Systems Virtual Serverと、オンプレミスに導入しているサーバーのシステム資源(CPU、メモリー)を、使用量に応じて従量課金で利用できるDynamic Capacityが前提となります。

IBM Power E1080が提供する圧倒的なCPUコア性能によって、お客様がご利用のアプリケーションが必要とするCPUコア数や物理CPU数、さらには物理的なサーバー台数の削減が可能になります。換言すれば、複数台のサーバーを用いて運用してきた様々なアプリケーションを、最小台数のIBM Power E1080に集約することが可能となります。

ここで、さらに、Dynamic Capacityを活用することで、初期投資を抑制した必要最小限の構成でサーバーの利用を開始できます。そして、繁忙期などでは負荷に応じて必要となるシステム資源を分単位の従量課金で利用できます。さらに、Dynamic Capacityであれば、負荷に応じてシステム資源を自動的に割り当てられます。システム資源の追加方法としては、IBM Power E1080に予め搭載してある予備のシステム資源を活性化させる対応もできますし、他のIBM Powerのサーバーの余剰リソースを割り当てる対応もできます。また、必要なシステム資源を割り当てたLPARをIBM Power Systems Virtual Serverで利用する対応もできます。

このIBM Power E1080IBM Power Systems Virtual Serverとの連携について、米国IBMは「Frictionless」という言葉で表現しています。

一般的には、ハイブリッドクラウドとFrictionlessの組み合わせは、個々のパブリッククラウドのデータセンターに収容されているハードウェアに標準API、OpenShiftなどを導入することで、摩擦が無くスムーズなアプリケーションの可搬性などを実現することを指していると思われます。

一方、IBM Power E1080IBM Power Systems Virtual Serverにおいては、Powerというアーキテクチャーが一貫していることから、標準APIやOpenShiftを導入する前から共通の環境です。OS、ミドルウェアが同一なので、アプリケーションを何の変更もなしにどちらの環境でも稼働させられます。その結果、必要な時に、IBM Power E1080またはIBM Power Systems Virtual Server上に必要なシステム資源を柔軟に用意して、アプリケーションやコンテナをデプロイできます。このような観点から、IBM Power E1080はハイブリッドクラウドを活用されるお客様にとっての回答となりえるサーバーなのです。

IBM Power E1080の最大の特長は、当然ながら、7nm(ナノメートル)プロセスを使用して製造されたIBM Power10プロセッサーを搭載していることです。

IBM Power9プロセッサーと比較すると、Power9プロセッサーの12コアに対して、Power10プロセッサーは15コアと、ソケットあたりのコア数が増えています。Power10プロセッサーのトランジスタ数は180億であり、Power9プロセッサーの倍以上となったことで、プロセッサーの性能が大幅に向上しています。そして、同時に、エネルギー効率も向上しています。

「ENERGY STAR」、「エネルギー消費効率」といった環境ラベリング制度や省エネルギー性能を示す指標が存在する状況下、エネルギー効率の向上は、電力が主であるエネルギー消費量の削減に寄与します。

事実、「ENERGY STAR」に関しては、前世代機となるPower9プロセッサー搭載サーバーとして2番目に高い性能を誇るIBM Power System E950が「ENERGY STAR」の認証を取得しています。なお、米国IBMが、IBM Power E1080で「ENERGY STAR」の認証を取得するかどうかは、僕には知る術もありません。

ENERGY STAR Certified Enterprise Servers
IBM Corporation : IBM — 9040-MR9
(9040-MR9はIBM Power System E950の製品番号)

話を戻します。

Power10プロセッサーは、Power9プロセッサーと比較してエネルギー効率も向上しています。ニュースリリースによると、前世代機にあたるIBM Power System E980と同じワークロードで比較した場合、IBM Power E1080はエネルギー消費量を33%削減できます。

昨年10月、日本政府は「2050年カーボンニュートラル宣言」を発表しました。脱炭素への取り組みと貢献が求められているのです。Power8プロセッサーを搭載している旧世代のIBM Powerのサーバーをご利用中のお客様には、IBM Power E1080および今後登場するであろう下位モデルへの移行をご検討いただけたらと思います。

AIワークロードの処理はGPUの活用が一般的です。例えば、米国オークリッジ国立研究所に設置されているスーパーコンピューター「Summit」も、GPUを搭載するIBM Power System AC922で構築されています。

IBM Power E1080が搭載するPower10プロセッサーは、コア内のAI推論機能が強化されています。具体的には、コアに組み込まれているMatrix Math Acceleratorを使用することで、高速なAI推論が実現できるのです。このことは、AI推論のために、GPUを搭載するシステムへワークロードを移動させる必要がなくなることを意味します。その結果、「ワークロードの移動に伴う遅延」も「ネットワーク上のデータに対するセキュリティー・リスク」も避けられることになります。

セキュリティーという観点では、透過的なインメモリー暗号化をサポートします。ハードウェア上で暗号化処理を行うため、パフォーマンスへの影響はありません。さらに、IBM Power E1080の製品ページによると、Quantum-safe Cryptography(量子コンピューターに耐性を持つ暗号技術)と完全準同型暗号(Fully Homomorphic Encryption)を用いて、サイバー脅威に備えられます。これらを踏まえると、IBM Power E1080は極めて安全性が高いサーバーの1つである、と述べても過言ではないでしょう。

他にも、IBM Systems Japan Blog記事「Power10は、SAP HANAのためにある」と「Power10はPOWER9と何が違うのか〜メモリー編〜」で紹介されているように、1TB/s の帯域幅を実現できるメモリー接続や、複数のIBM Power E1080を結合することで、広大なメモリー空間を高速に連携するメモリー・クラスタリングといった機能がサポートされています。ぜひ、本記事の最後にある関連情報に記載したWebや記事もご覧いただき、IBM Power E1080に興味を持っていただければ嬉しいです。

*実は、IBM Power E1080が発表される少し前から、「POWER10」が「Power10」、「IBM Power Systems」が「IBM Power」へと、ウェブやソーシャルメディア上の表記が変化しております。ブランド名称の変更を明確に宣言しているウェブやブログ記事を見た記憶は無いのですが、IBM Power10 プロセッサー搭載サーバーの登場が、ブランド刷新の契機となっています。本記事中にも、新たな表記ルール通りとなっていない箇所がありそうです。ご容赦ください。

関連情報

米国IBMのニュースリリース
IBM Power E1080 製品ページ(英語版)
Power10はPOWER9と何が違うのか〜概要編〜
Power10はPOWER9と何が違うのか〜メモリー編〜
Power10はPOWER9と何が違うのか〜I/O編〜

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Takumi Kurosawa

なんちゃってブロガー兼カメラマンな勤め人。業務用ソーシャルメディアの元「中の人」。(Mediumでの執筆内容は私自身の見解であり、執筆時点で所属していた企業の立場、戦略、意見を代表するものではありません)