デジタル・ツイン〜2019年に調査するべき戦略的テクノロジー・トレンド

Takumi Kurosawa
6 min readOct 30, 2018

--

Gartnerが8月に発表した「先進テクノロジのハイプ・サイクル:2018年」と、10月に発表した「日本におけるテクノロジのハイプ・サイクル:2018年」を見比べてみてください。

「先進テクノロジのハイプ・サイクル:2018年」出典:Gartner 2018年8月
「日本におけるテクノロジのハイプ・サイクル:2018年」出典:Gartner 2018年10月

日米で取り上げているキーワードが異なっているため、単純な比較はできません。しかし、同一のキーワードについて日米で比較すると、「期待度」や「時間の経過」が異なることに気づきます。

例えば、「ブロックチェーン」は米国のハイプ・サイクルでは、既に「過度の期待」のピーク期を過ぎていますが、日本におけるハイプ・サイクルでは、まさに「過度の期待」のピーク期にあります。また、「IoTプラットフォーム」は日米ともに「過度の期待」のピーク期に位置づけられていますが、米国では幻滅期(「熱狂が冷め、市場がいったん停滞」する時期)に差し掛かりつつあります。

「幻滅期」という言葉はネガティブな印象が強いのですが、テクノロジーを冷静かつ厳正に評価している時期と考えていただければ良いのだと思います。だからこそ、次の段階は、テクノロジーの市場への実質的な浸透が始まる「啓蒙活動期」なのです。日本において「ブロックチェーン」が実証実験から本番展開のフェーズに移行しているように、米国においても「ブロックチェーン」と「IoTプラットフォーム」は本番展開が始まり、先行事例をもとに啓蒙活動が進み、テクノロジーとして成熟していくことになるのでしょう。

米国で「過度の期待」のピーク期にある「デジタル・ツイン」とは?

冒頭の「先進テクノロジのハイプ・サイクル:2018年」において、「過度の期待」のピーク期に位置づけられているテクノロジーの1つに「デジタル・ツイン」があります。

「デジタル・ツイン」とは、「デジタル」を用いて作成された、現実世界の物理的なシステム等についての「双子」。換言すれば、車やエンジンのような物理的なオブジェクトについて、非常に正確に作成された仮想モデルのことです。

ただし、「デジタル・ツイン」は、単なる仮想モデルではありません。接続されているセンサーからのデータを仮想モデルに組み込むことで、物理オブジェクトの状態をリアルタイムに可視化できるのです。

つまり、センサーが測定した温度や湿度の状態といったIoTデータを「デジタル・ツイン」に組み込むことで、製品、システム、工場などの施設の健全性やパフォーマンスを把握できるのです。そして、把握した結果を踏まえて製品や施設の潜在的な障害を特定したり、リモートからトラブルシューティングを行うことも可能なのです。

「デジタル・ツイン」は、2019年の戦略的テクノロジー・トレンド

Gartnerが10月のプレスリリース「Gartner Identifies the Top 10 Strategic Technology Trends for 2019」で発表した、企業や組織が2019年に調査するべき最先端の戦略的テクノロジー・トレンドの1つに、上述した「デジタル・ツイン」が含まれています。

Gartnerの予想によると、2020年までに、200億以上の接続されたセンサーとエンドポイント、「デジタル・ツイン」が、潜在的に数十億のモノに対して存在している、とのことです。そして、2021年までに大企業の半数が「デジタル・ツイン」を使用し、その結果、企業や組織の有効性が10%向上すると予測されています。

日米のハイプ・サイクルにおける「期待度」と「時間の経過」にズレがあるとはいえ、「デジタル・ツイン」は日本の企業や組織も意識するべきテクノロジーの1つと言えるのではないでしょうか。

「デジタル・ツイン」へのIBMの取り組み

IBMは、「デジタル・ツイン」のために、モデリングと設計のためのソリューション「IBM Rational Rhapsody」や設計、製造、運用全体のデータを視覚化、分析するソリューション「IBM Rational Engineering Lifecycle Manager」などを提供しています。

DAQRIのスマートヘルメット(IBM Internet of Things blogの記事より)

また、IBM Maximo向けのLab serviceでは、資産管理へのAR(拡張現実)の導入を提供しています。

IBMは、ARスマート・ヘルメットの開発企業であるDAQRIと提携しています。そして、システムや工場などの施設に対する付加情報をARスマート・ヘルメットから映像や音声で提供し、重要データへの即時アクセスを実現しています。

今回紹介したRationalやMaximoといった製品を含むIBM Watson IoTを活用した「デジタル・ツイン」の具体的な事例の1つに、「世界でも最もスマートな港」というビジョンを掲げているロッテルダム港があります。

ロッテルダム港は「自律的な船」の実現に向けてWatson IoTを用いてデジタルツインを作成し、デジタル・ダッシュボードによって入出港や停泊の管理業務など全てのオペレーションを同時に監視しています。

ロッテルダム港の取り組みの詳細は『ロッテルダム港 を「世界で最もスマートな 港」へ — Watson IoTとクラウドにより港をデジタル ツインで再現』でご確認ください。

--

--

Takumi Kurosawa
Takumi Kurosawa

Written by Takumi Kurosawa

なんちゃってブロガー兼カメラマンな勤め人。業務用ソーシャルメディアの元「中の人」。(Mediumでの執筆内容は私自身の見解であり、執筆時点で所属していた企業の立場、戦略、意見を代表するものではありません)

No responses yet