考古学におけるAIの有用性を実証したIBMのテクノロジー

Takumi Kurosawa
5 min readNov 18, 2019

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「AIを活用した実証実験により、新たなナスカの地上絵を1点発見」

AIによって 発⾒された世界初の地上絵(杖を持った⼈型の地上絵)

このニュースは、山形大学および日本IBMの2019年11月15日付ニュースリリース発表後に多くの反響を呼んだので、ご存じの方が多いと思います。また、既に、多くのメディアで記事化されておりますので、概要を把握されている方も多いと思います。

本記事では、山形大学と日本IBMとの共同での実証実験において、IBMのAIテクノロジーが果たした役割についてのみ、日本IBM のニュースリリースと山形大学のリリースペーパーや補足資料を参照しながら整理します。

1. 山形大学の研究グループのナスカの地上絵の発見方法と課題

・(航空レーザー測量などで得られた)ナスカ台地全域に関する高解像度の三次元画像の分析と、現地調査により発見。
・高解像度の三次元画像はビッグデータ。そのため、画像から地上絵を見つける作業を目視で行う場合、膨大な年月が必要になる。

2.日本IBMとの共同での実証実験におけるAIの活用目的

・発見済みの地上絵のデータを、「教師データ」として学習させてAIを開発する。
・山形大学が持つ高解像度の画像データの一部を、機械学習をしたAIに分析させて、地上絵の候補を抽出させる。

3.日本IBMが実証実験のために用意したAIテクノロジー

・ハードウェア:IBM Power System AC922(以下、AC922と記述)

IBM Power System AC922

2019年11月版のスーパーコンピューターの性能ランキング「TOP500」で4連覇を達成した米国オークリッジ国立研究所の「Summit」はAC922によって構築。

AC922はCPUにPOWER9プロセッサーを採用し、NVIDIAのNVLink2によってNVIDIAのGPU Tesla V100と最大25Gbpsの帯域で接続可能。AI時代に求められる大容量データの高速処理に最適化されたコンピューター。

・AI用ソフトウェア・ツール・キット:IBM Watson Machine Learning Community Edition(以下、Watson ML CEと記述)
Watson ML CEは、選別され、テストされ、コンパイル済みのディープラーニング用バイナリー・ソフトウェアとライブラリーをパッケージ化したツールキット。ディープラーニング開発環境の迅速かつ容易な構築を支援。

4.実証実験の成果

・AIによる分析の結果、具象的な地上絵の候補が複数示された。
・有望な地上絵の候補について、山形大学が2019年に現地調査を実施。
・現地調査の結果、ナスカ台地の西部に新たな地上絵を1点発見。

出典:山形大学のプレスリリース補足資料
(毎日新聞 YouTubeチャンネル)「ナスカの地上絵新たに143点発見、AIも活用 山形大」。再生開始位置48秒からIBMのAIが発見に寄与した地上絵が登場

なぜ、IBMのテクノロジーがナスカの地上絵の発見に寄与できたのか

・目視で画像から地上絵を見つける場合は膨大な年月が必要になるが、機械学習をしたAIであれば所要時間の大幅な短縮が可能になる。
・AC922は画像処理に優れた能力を発揮するNVIDIAのGPU Tesla V100を搭載しているだけではなく、CPUとGPUとの間で大量のデータをやりとりできる帯域幅性能を提供しているので、(大容量の)高解像度画像データの高速処理が可能である。
・Watson ML CEが提供するディープラーニング用バイナリー・ソフトウェアとライブラリーは、AC922に最適化されている。

参考画像) IBM Power System AC922 Interactive product tour catalog より

IBM Power System AC922の内部構造
POWER9 プロセッサー
NVIDIA Tesla V100

2019年12月9日更新:実証実験の担当者である日本アイ・ビー・エムの頼さんが、「ナスカのロマン〜AIで見つける地上絵」と題した記事を公開しました。実証実験の過程と詳細を、ぜひ、ご確認ください。

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Written by Takumi Kurosawa

なんちゃってブロガー兼カメラマンな勤め人。業務用ソーシャルメディアの元「中の人」。(Mediumでの執筆内容は私自身の見解であり、執筆時点で所属していた企業の立場、戦略、意見を代表するものではありません)

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